甘い勧誘文句に釣られ、夢を求めて野球部に入ってくる一年生に待っていた運命、湯神の無神経な言い方を少し工夫して伝えておだてることでやる気を出す野球部の生意気な後輩。
「友達」をめぐる物語だからこそ、他人に認めて欲しいという承認欲求にまつわるエピソードが多彩であり、そのあたりもギャグっぽさと真剣さのバランスが見事です。
最終盤、湯神が卒業式で答辞を読む場面。
答辞を読んでいるのは湯神ですが、その内容はこれまでちひろが見てきた湯神の良いところそのもの。
他人に依存せず、自分に降りかかる結果に責任を持っている。
誰かと揉めても、失敗しても、怪我して負けても、クラスで浮いていても可哀想に見えない。
そんな姿は、 「自分の気持ちを無視して、友達が欲しい余りに空回りしている、みんなにとって都合のいい人間」になろうとしていたちひろと真逆の魅力を持っています。
中盤で湯神とちひろが一緒に落語鑑賞をすることになった際、「湯神くんといると楽」とちひろが思ったのもそんな性格のせいでしょう。
湯神くんは常に自分の好きなことに興味があり、そこに一直線ですが、他人に自分を合わせさせようとせず、他人の承認や行動によって人生の満足度を上げたりしていません。
この人にとって都合のいい自分とは何だろうか、そういった感情を抱いてしまいがちなちひろにとって、「都合のいい誰か」を決して求めない湯神は気を休められる存在なのです。
そして、そんなちひろの性格が全編に渡って緻密に描かれていたからこそ、高校生活の終盤、三年生の文化祭になってようやく「誰かにとって都合がいいだけの自分」を振り切ろうとちひろが行動する場面では心の底から静かな感動が湧き上がってきました。
本作を「内気で不器用なちひろが他者との関わり方を会得していく物語」として鑑賞した場合、この場面がまさにクライマックスだといえるでしょう。
繰り返しになりますが、コメディの皮を被った青春成長物語としての側面も本作の魅力なのです。
それも、派手な英雄の物語ではなく、自分の至らなさに悩む小さな人間の物語として魅力的なのです。
4. 結論
劇的な感動があるというわけではないですが、コメディとしても面白く、人情もの・成長物語としても手堅い魅力を放って完結した本作。
楽しむのに特定界隈の文脈理解や前提知識の必要ない普遍的なお笑い人情ものという良い意味での古典復古作品でもあります。
万民にお勧めできますし、平均より上、星3つに十分手が届いています。
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